本書の「おわりに」でも触れられていますが、JR高円寺駅南口に「バーミィー」というちょっと怪しげなお店があります。伝説の「荻窪ロフト」の元店長とその奥様が開いたアジア料理店で、店内にはところ狭しとアナログレコードが散在(混在?)している、どこかレトロでロックテイストなお店(当然、喫煙可です)。本書『抗う練習』の企画はそんな空間から立ち上がりました。書評家としての印南さんの別の顔がここにあります。
POSTED BY寺崎
まともに抗うのが難しい時代に
どう、抗うべきか。
これまで、時代の節々に、ひとびとは「抵抗」してきた。権力に抗う。
差別に抗う。
偏見に抗う。
でも、いつしか「抗うなんて、かっこ悪い」という時代になった気がする。
「失われた30年」を他人事のように眺めながら
「常識」「ふつう」「みんな」という名の同調圧力に屈する。
本書は「抵抗することを忘れてしまった時代」に生きる我々に
「自分らしく生きていくために抗う術」を伝える。
22年前の死刑判決。
そして「抗う」ことの意義。
1998年(平成10年)7月25日に起きた、そののち「和歌山カレー事件」として知られる事件がある。
和歌山県和歌山市園部地区で開催された
夏祭りの会場で提供されたカレーを食べた67人が
吐き気や腹痛を訴えて病院に搬送され
4人が死亡した事件だ。
当初は食中毒だと思われていたものの、
そののちの調査で毒物のヒ素が混入されていたことが判明。
事件から数か月後の10月4日に
元保険外交員・主婦の林眞須美氏が
夫の林健治氏とともに逮捕された。
保険金詐欺の犯歴を理由に逮捕され、
その後、殺人及び殺人未遂容疑で再逮捕、起訴。
眞須美氏は一貫して容疑を否認しているが
2002年12月11日に和歌山裁判所で死刑が言い渡された。
いま、この瞬間も抗い続ける
あの人に話を聴きに行った。
ところが、この事件に関する裁判には大きな問題があることが、
のちの検証により明らかとなってきた。
疑念点1:
直接証拠がなく、状況証拠の積み重ねだけで有罪となっている点。
疑念点2:
そもそも犯行動機が不明瞭。
つまり、冤罪の可能性がきわめて高く、
死刑が確定した林眞須美氏は
いまなお無罪を主張し続けている。
一方、林夫妻のもとに生まれた4人の子どもたちは
その後、児童養護施設で壮絶ないじめを受け、結果的に離散。
長女は2021年6月9日に自死した。
そんななか、事件当時11歳だった長男だけが
職場や友人に身分を隠しながら、
無実を訴え続ける母親と面会を続けている。
そんな彼の「抗い続けるさま」を克明に描写すべく
彼の地元である和歌山まで足を運び
ロングインタビューを決行することとなった。
本書の後半は、その貴重な記録である。
本書の章立て
第1章 いつも、抗ってきた。第2章 抗う作法
第3章 ささやかな「抗い」のプロセス
第4章 僕が伝えたい「抗う人」たち
第5章 いまここで抗い続ける人の声を聴く――林眞須美死刑囚の長男との対話
著者について
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1962年東京生まれ。作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。ビジネスパーソンに人気のウェブメディア「ライフハッカー・ジャパン」で書評欄を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。現在は他にも「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」「Sunmark Web」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」にもエッセイを寄稿。
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『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)などの著書のほか、音楽関連の書籍やエッセイも多数。